事例で学ぶiPhone/iPad活用術 (157) 議員と市幹部職員にiPadを導入、"タブレット議会"に移行した逗子市(動画付)

全国初となる"タブレット議会"が逗子市議会で始まった。平成25年第4回定例会では、平井市長および市幹部職員、19名の議員全員がiPadを携帯して審議に臨んだ。議案や行政計画、各種資料などはすべて電子データ化し、クラウド型コンテンツ配信システムを活用し、基本的にペーパーレスで議会運営を行っている。

手元のiPadを見ながら答弁する平井市長(中央)。議長、議員、行政側まで全員がiPadを使って同一の資料を参照しながら議事が進行していく

逗子市長 平井竜一氏

「タブレット端末は膨大な情報を入れておけるので、かさばる紙の資料を整理する手間はいりません。検索性も優れているので、関係するさまざまな資料へのアクセスも早くなりました。議会での答弁では、いろいろな質問に対応するのに便利で、紙資料を使っていた頃よりも格段に効率がよくなりました」と語るのは平井竜一 逗子市長だ。

議会と行政にタブレット端末を導入したことで、紙から電子データへの移行が進み、議会だけでなく庁内会議もペーパーレスへの移行が進んでいるという。

同市のiPadの活用シーンは、以下の動画で紹介している。


全国でも珍しい、議員主導のタブレット端末導入プロセス

逗子市の先進的な取り組みに対し、全国の自治体から視察が相次いでいるが、そこで決まって質問されるのは、「どうして1年足らずの短期間で導入できたのか」だという。議員間の意見調整や議会での予算獲得、費用対効果をどうやって市民に説明するかなど、タブレット端末の導入には乗り越えるべき課題が多い。

ちょうど1年前となる平成24年第4回定例会で、タブレット端末のデモ機を借りて実証実験を実施、半年後の平成25年第2回定例会では早くも全議員(19名)によるiPadの運用が開始。そして同年10月には市長および市幹部職員へもiPadを配付した。こうした迅速な導入経緯について、塔本正子 議長は次のように語る。

逗子市議会 議長 塔本正子氏

「逗子市の特徴は、議員が主導してタブレット端末の導入を強力に推進したことです。他の自治体では行政側が主導するケースがほとんどだと聞きますが、当市ではICT活用に積極的な議員が中心となり、ほかの議員や行政を巻き込んだ活動を展開しました」(塔本議長)

平井市長もICT導入による議会活性化には理解を示したが、財政健全化を目指し職員の削減など行政のスリム化を進めている逗子市では、タブレット端末導入にかかる追加予算や、議会運営に当たる議会事務局員の増員には対応できない。

「そこで議員たちが知恵を絞って、通常の議会運営費から削減できるコストを徹底的に洗い出して、タブレット端末導入に必要な経費を捻出したのです」と語る塔本議長。

議会のペーパーレス化で削減できる紙や印刷コストの削減に加え、図書追録に掛かる加除費の減額、さらには議長専用車を廃止して市長・議長・教育長で公用車を共有するなどの施策を決めた。こうした熱意に応え、平井市長は「予算編成ぎりぎりのタイミングでしたが、こうした新しい取り組みには意思決定のスピードが大事」と、議会へのタブレット端末導入に同意した。

タブレット端末に不慣れな議員への指導についても、議会事務局に研修を依頼したのは当初の1回のみ、その後は議員同士の教え合いを通して全議員が操作を習得していったという。

「タブレット端末に不慣れな者には、得意な議員さんがとても熱心に教えてくれます。こうした議員同士の一体感があったから、スムーズに導入が進んだのだと思います。他の自治体からの視察についても、議会事務局に対応を任せるのではなく、議員自らが説明や質疑応答に答えることで、議会事務局への負担を減らす努力をしています」(塔本議長)

ペーパーレスに満足せず、市民サービスにもタブレット端末を活用

ICTによる議会活性化に積極的な有志議員は「逗子市議会ICT推進部会」を作って、前述の操作指導や視察対応を行うほか、Facebookを通じて議会活動の情報発信にも乗り出している。

「ペーパーレスによる環境対策も重要ですが、我々議員が最も考えなければいけないのは、タブレット端末導入による効果をどうやって市民の皆さまに還元するかです。他の自治体では議場や庁舎内に使用が限定されたWi-Fi仕様のタブレット端末を導入するところもあると聞きますが、当市では議員がタブレット端末を常に携帯して、市民の皆さまと接することが重要だと考えています」(塔本議長)

ランニングコストは増加するが、外出先でも資料を閲覧したりメールやインターネットを活用できるようにと、逗子市ではiPadのWi-Fi+Cellularモデルを導入している。議会資料に限らず、市民生活に関するさまざまな行政資料は、クラウドサービスを使っていつでもどこでも最新版を閲覧できる環境だ。

「例えば、市民との会合の場で津波ハザードマップをタブレット端末でお見せして、地域ごとの危険度を鮮明なカラー画像で説明できるのは素晴らしいと思います。行政計画や予算などについて、市民の皆さまから質問される場合でも、以前は手元に資料がないと『後で関係資料をお調べし、お答えします』などの対応でしたが、今ではすぐその場で資料を開いてお答えできるようになりました。こうした素早い情報提供をすることで、議員たちはタブレット端末導入の効果を市民の皆さんに還元しています」(塔本議長)

"タブレット議会"によるコスト削減効果

平成25年6月の議員へのタブレット端末配布に際して検討されたのは、コスト削減効果や議会の運営業務の効率化だったと逗子市総務部長の柏村淳氏は振り返る。

「1回の議会で、議員1人当たり1000~2000枚の紙資料を用意して審議を行います。議会終了後は、可決承認された議案をまとめた正式版を作成するので、毎回大量の廃棄資料が発生していました。タブレット端末の導入によるペーパーレス化で、年間約150万円の紙・印刷コストが削減できると試算しています。さらに、議会資料に修正があった場合の差し替えに掛かる煩雑な業務も、ペーパーレス化により軽減されました」(柏村氏)

逗子市 総務部長 柏村淳氏

電子化した資料をiPadへ配信する手段としては、クラウドサービスを取り入れた電子ブックアプリ「SideBooks」が採用された。端末本体にデータを保存する方式に比べ、端末の紛失による情報漏えいの心配もなく、タブレット端末の機種を変更しても使い続けられるメリットなどを評価して、クラウドサービスを選択したという。また、資料を見開きで表示でき、紙をめくるようなアニメーションが好評という。

タブレット端末の導入以前、議会用の紙資料を議員に配付するには、市庁舎内の議会事務局前にある議員宛てメールボックスに各部局が投函していた。このため、議員も資料を受け取るためだけに市庁舎へ足を運ぶ必要があった。

現在では、各部局で作成した資料はPDF化して、クラウドサービスにアップロードすれば作業は完了だ。議員は、いつどこにいても最新版の資料をクラウドサービスから閲覧できるので、紙資料を取りに行ったり、大量の紙資料を整理して、必要に応じて資料の山から探し出すような不便さも解消されている。

PDF化した資料のアップロード作業は、各部局のパソコンから簡単な操作で行える

議員に続いて、市幹部職員へのiPad配付を決定

こうした取り組みによって、議員はタブレット端末を持ち込むだけで議会に臨める利便性を獲得したわけだが、当初は議員の質疑に答弁する市職員は相変わらず紙の資料を持ち込む状況だった。これに対し、平井市長から「議員だけにタブレット端末を配付しても完全なペーパーレス会議にはならない。行政側にも導入してもっと有効活用しよう」と指示があり、年度内ではあったが予算をやり繰りして、議員に遅れること半年後、30台のiPadが市長・副市長・教育長・部長および各部に1台ずつ配付された。

議員の質疑に答弁する市の担当者。行政側もiPadを使った議会に臨んでいる。議員の質問を素早くメモするため、紙のメモ帳は必要だという

これにより冒頭に紹介した"タブレット議会"が実現したのだが、行政側では議会対応以外にも、庁内会議のペーパーレス化によるコスト削減や業務効率化に取り組んでいる。

「現在は主に市長、副市長との打ち合わせや、部長会議で資料を電子化してペーパーレス会議を実施しています。まだ始めたばかりですが、会議用資料の準備などにかかる業務はかなり軽減されています」(柏村氏)

まだ導入台数が少ないため、庁外に持ち出して市民に対してサービスを展開するような段階にはないというが、秘書広報課では市長・副市長のスケジュール管理をiPadで行っているなど、部署ごとに活用内容は広がりを見せている。

新しい情報発信や市民との双方向コミュニケーションを模索

平井市長は日々の活動を自身のブログに綴るなど、以前からICT活用には前向きで、タブレット端末の導入後は、ふと思いついたアイディアをiPadに打ち込み、それをメールで送ったり、別の資料にコピーするなど日々の業務にも活用しているそうだ。

「スマートフォンやタブレット端末は市民にも普及し始めているので、広報活動など市から発信する情報も、今後はスマートフォンやタブレット端末などの新しい端末に合わせた形を模索していきたいと考えています」(平井市長)

全国に先駆けて"タブレット議会"を実現させた逗子市は、議会と行政が連動してタブレット端末の活用を推進していくことで、さらなる業務の効率化を実現するだろう。今後はペーパーレス化の先にある市民への情報提供サービスでも先進的な取り組みを期待したい。

※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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