レンジファインダカメラのこころ (1) 高機能で低価格の時代に一石を投じるデジタルカメラ「R-D1」

これってデジカメ? R-D1の不思議

最近、フィルムタイプのカメラで撮影している姿を見かけることが少なくなった、というか、ほとんど見かけなくなった。プロもアマもビギナーもカメラと言えばデジタルカメラのことになってしまったようだ。そんな中で「これはなに? デジカメ?」と誰もが疑問を持ってしまう風変わりなカメラが存在する。

エプソンのレンジファインダデジタルカメラ「R-D1」シリーズ

何十年も昔に作られたようなレトロなデザインが施され、デジタルカメラでは必要なくなったはずの巻き上げレバーを装備しているこの製品は、撮影可能枚数やバッテリ残量、ホワイトバランス、画質といった情報も4針式のインジケータで表示するという凝りようだ。製品名は「R-D1」といって価格はなんと30万円近くもするが、レンズはこの値段で別売だ。しかもピント合わせと絞りの操作はマニュアルのみという顔認識まで可能なこの時代にあり得ない仕様となっている。すべてにおいて時代に逆行するようなこの不思議なカメラ。なんとあの「カラリオ」のエプソンが発売しているのだから驚きだ。

デジタルカメラである証拠として、フィルムの入るべき場所にリチウムイオンバッテリを内蔵し、記録メディアとしてSDメモリーが挿入できる

「エプソンってカメラを作っていたの?」と首を傾げる人もいるだろうが、実はデジタルカメラ創成期の頃から作り続けており、その歴史は長い。しかし、デジタルカメラ市場の熾烈な闘いの中で、現在はR-D1だけが同社の販売している唯一のデジタルカメラとなってしまった。「なんでこんなカメラを販売しているのか?」という疑問とこのカメラの魅力は連載を通じて追い追い紹介されていくはずだが、まずは最大の特徴でもあるレンジファインダについて解説しておきたい。

レンジファインダってなに?

現在、レンジファインダを搭載したデジタルカメラは、ライカM8と今回連載を開始するR-D1xGしか販売されてないが、そもそもレンジファインダとは何だろうか? 日本語に直訳すると「距離計」と訳され、主に測量等に使われる機械の距離測定器のことをいう。レンジファインダは三角測量の原理を応用して、2点間の差から1点の距離を割り出す方法で、この機械を小型化してカメラに搭載したのが「レンジファインダ式カメラ」なのだ。

R-D1に内蔵されているレンジファインダのユニット。この複雑なメカが右のようにボディに納められている

元々、昔のカメラはピント合わせを目測で行っていたが、より正確なピント合わせをするためのアクセサリとしてレンジファインダが作られた。当時はレンジファインダで距離を測り、そこから読み取った距離をカメラのレンズの距離表示にあわせて使っていたのである。それが後にはレンズでピントを合わせるのと同時に距離計が動く「距離計連動式」と呼ばれる技術が開発された。初期のうちは距離計部分とファインダが別体になっていたが、技術の進歩により、ファインダ内に距離計部分を表示させることができるようになり、多くのカメラがその方式を採用した。いわゆる「二重像合致式距離計連動式カメラ」と呼ばれるもので、主にオートフォーカスカメラが出てくるまでは、コンパクトカメラの主流的な方式であった。現在のコンパクトデジタルカメラにもレンジファインダと同じような光学式のファインダを搭載している製品があり、これをレンジファインダと誤解している人がいるが、撮影範囲の確認のための機能しかない実像式ファインダで距離計は搭載していない。

レンジファインダの構造

レンジファインダのピント合わせの特徴は、中央部にある明るい部分の絵像が二重になっており、それが重なるとピントが合っているという構造だ。そのため、デジタルカメラ一眼レフのファインダやコンパクトデジタルカメラの液晶モニタはピントが合っていないときには被写体ボケて見えるが、レンジファインダは常にファインダ内の画像が鮮明に見えるので被写体の動きを確認することができ、とっさの撮影等に有利だ。また、シャッターを切る際に一眼レフはミラーがアップして被写体が見えなくなるがそれもない。

ピントが合っていないときは、ファインダ中央の明るい部分の画像がずれているが、ファインダ内の画像は鮮明に写ったままになる

ピントが合うと2重像がぴたりと重なる。広角系のレンズならば、被写界深度があるのである程度アバウトでもピントが合う

また、広角系のレンズを使用した場合、絞りをある程度絞り込んでおき、ピントを3m付近に固定しておくことで全体的にピントのあったパンフォーカス写真が簡単に撮れる。そのため、スナップ写真向けのカメラとして多くのカメラファンに愛されてきた。しかし、とても便利に思えるレンジファインダだが、デメリットがないわけではない。まず、撮影レンズとファインダ部分が別になっていることから、正確なフレーミングが難しく、なれるまでに時間を有する。また、距離計の有効基線長の関係から、中望遠レンズクラスまでしかピントの精度が出ない。そして、機構上、近距離撮影も1m前後とあまり得意ではないことだ。つまり、ファインダで見ている範囲と実際に写る画像がズレやすく、極端に遠いものや近いものの撮影が苦手なのである。

これらの癖さえわかっていれば、通常の撮影パターンの8割はレンジファインダカメラで充分撮影することができる。残りの2割とは超望遠撮影とマクロ撮影だが、これも手間はかかるがビゾフレックスというアダプタを使うことで解消可能だ。

スナップ撮影で生きるR-D1の魅力

さて、世界初のレンジファインダデジタルカメラとして登場したR-D1も今年の4月に登場したR-D1xGで3代目。2004年に初代モデルが発売してから、2006年に「R-D1s」、2009年に「R-D1xG」と地道にマイナーチェンジを重ねて現在に至っている。最新モデルのR-D1xGは、回転式だった液晶モニタが固定式になったことやホールド感を増すグリップがつくなど改良点も多い。しかし、基本スペックに大きな変更はなく、時計の技術を採用しているという4針式インジケータやシャッターチャージレバーは健在で、アナログ的な雰囲気や精密機器感を演出している。ちなみにこのレバーはダミーではなく、きちんとシャッター幕を巻き上げており、従来の役目を果たしているので誤解のないように。

R-D1とR-D1sは、製品ロゴ以外はまったく同じ外観で、ファームウェアをアップすると機能的な差もなくなってしまう。R-D1xGもグリップを外すと正面からはロゴ以外の違いはないが、R-D1とR-D1sは液晶モニタが回転するのに対してR-D1xGは固定式になっている。旧モデルには液晶モニタの裏側に35mmフィルムのレンズを装着した場合の焦点距離の換算表が取り付けられていたがR-D1xGには当然ながらない。その代わり、液晶サイズが2型から2.5型にアップされている

フィルム時代と同様にシャッターチャージレバーが装備され、シャッタースピードと感度設定も昔懐かしいダイアル式となっている

フィルムタイプのカメラでも装備していなかった4針式のインジケータには、撮影可能枚数やバッテリ残量、ホワイトバランス、画質といった情報が確認できる

ところで、R-D1はコンパクトカメラのような外観だが、一眼レフと同様にレンズ交換ができる。レンズマウントにはライカMマウント互換のEMマウントが採用されており、最新のカールツアイスレンズやフォクトレンダーのレンズをはじめ、レンズアダプタを使えば国内外の200本以上のレンズを使用することが可能だ。焦点距離も12mmから135mmまで揃っているので多彩な撮影だ。もちろん、50年以上前に生産されたライカのLレンズもアダプタで装着可能だ。

そしてなんと言ってもファインダが等倍であることは見逃せない。片目でファインダをのぞき、もう一方の目を開けて見ても被写体の大きさが変わらないため、違和感無しに撮影することができる。ここはエプソンがもっともこだわった部分だという。そのため、R-D1はスナップ撮影がもっとも威力を発揮することができる。

レンジファインダは撮影用のレンズとは別になっているため、レンズを交換しても目で見ている被写体の大きさは変化しない。また、R-D1はレンジファインダが等倍になっているので、両目を開いてのぞいても差がなく違和感がない。右の写真は少々わかりづらいかもしれないが、被写体になっている一眼レフ用の交換レンズの上部分は直接見た状態で、下はレンジファインダを通して見ている状態だ。等倍なので差がないことがわかる

なお、撮像素子はAPS-Cサイズのため、1.53倍の焦点距離になり、28mmのレンズなら35mm換算で42mmと準標準レンズの画角に相当し、スナップ撮影で扱いやすい画角と被写界深度を持っている。また、50mmレンズなら75mmの中望遠レンズに相当し、ポートレートや中望遠でのスナップ等でその力を発揮することが可能だ。特に50mmレンズはライカやツアイス、フォクトレンダーだけでなく、ロシア製や日本製のレンズも多く揃っており、それぞれ独特の描写がデジタルで再現することが可能で、これらのレンズを使用するためにR-D1を購入するユーザーも多い。

50mmレンズでのスナップの例。75mm相当と、適度な中望遠レンズになるので非常に使いやすい

70年以上前のクラシックレンズから最新鋭のレンズまで、たくさんのレンズを使って自分だけの表現が可能なエプソン「R-D1」。この連載は職業も考え方も異なる複数のR-D1愛用者が持ち回りで執筆する形式となっており、各視点でその魅力を語ってくれることになっている。次回を楽しみにお待ちいただきたい。

※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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